ACPとは?もしものための「人生会議」について考える
皆さんは「ACP」という言葉をご存知でしょうか。あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、別名「人生会議」とも呼ばれており、近年必要性が高まっています。ACPを知っておくことで、本人・家族が後悔しない最期を過ごすことができるでしょう。
今回はACPが求められる理由や、手順・タイミングなどについて解説します。自分の人生を見つめ直す機会にもなりますので、ぜひ参考にしてください。
1.ACPとは?
余命が残りわずかになると、約70%の人が自分の思いを伝えることが難しくなると言われています。その前に必要なのがACPです。
ACPはアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning )と呼ばれています。患者さんの治療やケア・価値観などについて、本人・家族・関係機関が話し合いをしていくプロセスのことです。繰り返し話し合いを進め、患者さん本人の意思決定を支援します。
主に病状や治療方針、本人の意向・価値観などを話し合います。そして希望の医療やケア、最期をどのように迎えたいのかを具体化する目的があります。
ACPは欧州などでは普及されていますが、日本では「人生会議」と名付けられ、2018年頃から取り組まれています。厚生労働省でも大きく取り上げられており、話し合いの内容や手順などの動画も紹介されています。また様々な著名人が活動し、普及を進めています。
「本人や家族だけだとどういう風に話を進めていいかわからない」「具体的にどんなことを話せばいいかわからない」という方も少なくありません。
ACPは本人に関わる関係機関の人たちも交えて話し合いましょう。関係機関とは、かかりつけ医・看護師・ソーシャルワーカーなどの医療機関、ケアマネジャー・ヘルパーなどの介護機関です。医療機関からは病状、介護機関からは家族が知らない本人の一面を知っているかもしれません。医療・介護、様々な視点から考えることによって、より具体的な話し合いを進められるでしょう。
またACPは一度話し合ったらそれで終わりと言うわけではありません。病状や身体状況などが変わると、本人の気持ちも変化していくことが考えられます。そのためACPでは、定期的に話し合うことが必要とされています。
2.ACPが求められる理由
なぜ近年ACPが求められているのでしょうか。理由として2点あります。
◆残される家族の負担を減らすため
1つ目は残される家族の精神的な負担を減らす目的があります。
病状が悪化すると、段々本人と意思疎通を取ることが難しくなります。そうなると残された家族は、治療の判断に迷ってしまいます。たくさんある選択肢の中から、家族が決断するのは大変なことです。
例えば、本人と意思疎通が取れず、口から食事がとれなくなった場合、栄養摂取の方法を考える必要があります。「点滴をする」「胃ろうを作る」「何もしない」など、様々な選択肢から決定しなければなりません。「体に穴を開ける、胃ろうは絶対に嫌だ」「どんな手を使ってでも長生きできる手段を取ってほしい」と人によって考え方は様々です。家族が「本人だったらどれを選ぶだろう」と想像しながら考えなければならず、家族間で意見が分かれることもあるかもしれません。後々「あの選択は間違っていたんだろうか」と思い悩んでしまい、中には抑うつになってしまう方もいます。
ACPを実施することで、本人・家族の満足度が高く、遺族のストレスやうつの傾向が少なくなったという報告があります。
◆本人が後悔しない最期を過ごすため
2つ目は本人が後悔しないように最期を過ごす目的があります。
話し合いを進めていく中で、「自分が何を大切にして生きてきたのか」「今後どのように生きていきたいのか」など、本人が自分を見つめ直すきっかけになります。自分でも気づかなかった価値観を発見できるかもしれません。
3.タイミングや手順は?
まずは話し合うタイミングです。病状が進んでくると意思疎通が取れず、しっかりと話し合いができない可能性があるため、本人が意思決定できるうちに話し合いをしておくことが重要です。
最初は「残りの人生をどんな風に生きていきたいか」などのざっくりとした内容でも構いません。「食事が取れなくなったらどうするか」「最期をどこで過ごしたいか」など、本人の健康状態によって、話し合うべき治療やケアの内容が絞られてきます。意向を決定できないまま、意思疎通が取れなくなってしまうこともあるかもしれません。本人に代わって、意思決定をお願いできる人を選定しておくことも必要です。
手順としては、まずは一人で決めないことが大切です。家族だけでなく、かかりつけ医を中心に看護師・ケアマネジャーなどの関係機関とも話し合いを行います。自分の病状を理解するために、医療者としっかり話し合える関係性を構築することも大切です。
そして一回で決めようとしないことです。話のテーマによっては、すぐに決めれないこともあるため、その場合は時間をかけて話し合いましょう。
4.実際の事例について紹介
Aさん(女性・80代)は体調不良で入院し、検査の結果、末期の膵臓癌と診断されました。身の回りのことは自立していましたが、予後は半年と宣告されました。
家族・病院の医師・看護師・ソーシャルワーカーなどと、今後について話し合いました。Aさんは「元気なうちは家で過ごしたい」「最期はどこで過ごしたいかはまだわからない」とのお気持ちがあり、まずは自宅へ退院しました。
退院にあたり訪問診療・訪問看護を利用することになり、関係機関で打ち合わせをして自宅へ退院しました。
退院後、訪問診療・訪問看護とも信頼関係を築き、Aさんから「自宅で最期を過ごしたい」「辛くない・痛くないようにして欲しい」という言葉が聞かれました。その後すぐに病状が悪化し、本人と意思疎通が取れず、食事も取れない状態になりました。ただ事前に本人の希望を確認できていたため、点滴などで本人に苦痛がないように自宅で過ごす準備を進めました。
Aさんは希望通り、家族に見守られながら自宅で最期を過ごしました。本人の希望を叶えられたことで、家族も「本人の希望を叶えられてよかった」と満足することができました。
このように様々な職種が関わりながら、話し合いをしてきたことで、Aさんだけでなく家族も納得できる最期を過ごすことができました。
ACPは、人生の最終段階において欠かせないプロセスです。そして相談ができる関係機関との繋がりが重要と言えます。
メドアグリケアグループでは、医師・看護師などの様々なスタッフがチームとなり、患者様やご家族に寄り添った医療を提供しています。
24時間体制の訪問診療も行っており、住み慣れた自宅で生活できるようにサポートいたします。そしてこれからどんな生活を送りたいか、どんな最期を過ごしたいかなど、一緒に考えるお手伝いをさせていただきます。
「病院に通院するのが大変」「これからどんな風に生活していけばいいかわからない」など些細なことでも構いません。お気軽にお問い合わせください。