在宅医療を選ぶ際にチェックしておきたいメリットとデメリット

在宅医療という言葉にも市民権が与えられつつありますが、自分の最期や家族の最期をどこでどう迎えたいかを考えるきっかけの一つになっている方も多いのではないでしょうか。マスメディアでも在宅医療や訪問診療、訪問看護について特集が組まれることも多くなり、これからの日本の医療で中心的な存在になってくることがわかります。

そこで、今回は在宅療養支援診療所として訪問診療所や訪問看護ステーションを選ぶ際に事前にチェックしておきたいメリットとデメリットについて紹介していきます。ご自身や家族の方を参考にしながらメリット・デメリットを見比べてください。

●在宅医療とは
在宅医療でよく混同されやすいのですが、「訪問診療」と「往診」の定義は少し異なります。在宅医療とは、療養している方の自宅や老人ホームへ出向いて行う様々な在宅療養支援医療です。 その中の「訪問診療」とは、通院が困難な方のご自宅に医師が定期的に訪問し診療、治療、薬の処方、療養上の相談、指導等をさせていただき、24時間365日患者さんをサポートする在宅医療の中の制度です。そして「往診」とは、突発的な病状の変化に対して緊急的に自宅に伺って診療を行う、在宅医療の中の一つの制度です。「往診」が突発的に訪問を行うのに対し、「訪問診療」は定期的に訪問を行うという点で大きく異なります。もちろん訪問診療では、定期訪問を行っている方の病状が不安定になったときには緊急訪問を行います。

超高齢化社会を迎える日本では、病院に入院する「入院医療」から自宅などで療養する「在宅医療」へと舵取りが行われています。在宅医療の中の訪問看護は、医師の指示書のもと看護師はもちろん、保健師や助産師・准看護師が中心となって行われます。また必要に応じて理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も訪問します。患者さんとご家族、主治医、ケアマネジャー、介護士、薬剤師、歯科医師と連携しご自宅などの療養をサポートします。

▶︎訪問診療と訪問看護対応医療機関数
訪問診療に対応している医療機関数は平成26年付で23289箇所です。日本の全診療所数のうち約20%、全病院数のうち約30%が訪問診療に対応しています。また、全国訪問看護事業協会の資料によると、訪問看護が始まった直後の平成5年度指定訪問看護ステーション数は277箇所でした。それが、平成30年になると10418箇所にまで約40倍に増えています。これだけ増えた背景には、訪問診療と訪問看護の需要が高まっているだけでなく国の政策が入院医療から在宅医療へとシフトチェンジをしていることが関係しているのでしょう。

▶︎訪問診療、訪問看護普及率・利用率の推移
訪問診療の利用者数は平成26年度で約65万人です。その中で、訪問看護を利用している人の数はおよそ57万人でした。訪問看護利用の内訳をみると医療保険を利用している人が約17万人・介護保険を利用している人が約40万人となっています。
事業所別でみてみると、医療保険を利用する医療機関は増加傾向ですが、介護保険を利用する医療機関は減少傾向となっています。適用される保険で差はありますが、訪問看護の事業者数や利用者数はともに増加傾向なので訪問看護に対するニーズが高まっていることの表われではないでしょうか。

●訪問診療のメリット
訪問診療を選ぶ際には患者だけでなく、家族など介助者にとってもメリットがあります。外来医療や入院医療と比べて訪問診療にどのようなメリットがあるのかご紹介します。


▶︎通院の負担が軽減される
訪問診療の最大のメリットと言っても良いのが、通院にかかる患者さんの身体的負担が軽減されることです。一般的な外来医療(外来診療)では、往復の移動や、診察・調剤薬局での待ち時間など負担が大きいものです。ましてや複数の診療科受診となれば更に負担は大きくなります。その反面、訪問診療は医療者が自宅に訪問してくれるため患者さんは移動する必要がありません。1人暮らしの高齢者で、交通機関の利用が不便な地域や車がなければ生活が困難な地域の方など、移動のための身体的負担の軽減のメリットは大きいのではないでしょうか。

また、ご家族や介助者の付き添いが必要な方の場合、病院など医療機関への受診のたびに半日がかりだったり、遠方であれば1日がかりとなることもあります。訪問診療を利用することで、わざわざ家族や介助者に都合をつけてもらう必要もなくなります。ご家族や介助者にとっても通院に付き添っていた時間を家事や他のお世話などの時間にあてることができます。

▶︎身体に制限があっても利用できる
患者さんに身体的な制限(病気や障害のため歩行困難、通院が困難)や医療的ケア(尿道カテーテルや、中心静脈カテーテル、胃ろうや各種医療チューブなど)の必要がある場合、通院することさえも大変になってしまいます。訪問診療であれば、身体に制限があっても医療従事者が訪問してくれるため問題なく利用できるのではないでしょうか。また、ご家族が外来医療へ連れて行くことが難しくなっても訪問診療を利用すれば療養を続けることができます。

▶︎24時間365日体制の対応が受けられる
訪問診療を実施する医療機関のうち在宅療養支援診療所では「 24時間365日医師・看護師が訪問できる体制の整備 」が要件となっています。定期的な訪問に加え、夜間や休日なども含め24時間365日体制で電話の指示・往診・救急車の指示などの対応が可能なので緊急時にも安心です。

▶︎医療保険(健康保険)・介護保険が利用できる
在宅医療にかかる費用は①医療機関への支払い②薬局への支払い③介護保険の自己負担分となります。
在宅医療に必要な費用のうち、「健康保険」は病気やけがの治療に幅広く利用でき、「介護保険」はサービスを受けられる人の対象年齢と健康状態が限定されていますが、介護の負担を軽減するために介護に特化して利用できます。

訪問診療、薬局への支払いは健康保険が利用でき、外来医療と同様の自己負担額で療養を受けることができます。訪問看護や訪問リハビリは健康保険や介護保険の2種類が利用できます。介護保険を利用すれば総医療費の1割が自己負担額です。このように在宅医療では医療費の自己負担を抑えた利用が可能となるのです。介護保険は具体的な要介護度とケア内容によって異なってきますので、公的な医療保険を活用しながら、ケアマネジャーに相談するなどしてプランを作っていきます。
例えば、訪問看護では上限回数以上の訪問では自費となります。また、緊急時の対応など医療費がかさんでしまったときには高額療養費制度を利用することができます。高額療養費制度は、「訪問看護費用に適応できる医療制度をまとめて紹介」にて触れます。費用面において、一般的に入院治療を継続するよりも在宅医療の方が安くなるのが在宅医療のメリットです。

▶︎一般的な医療であれば同程度のものを受診できる
戦後は訪問診療と外来医療とで提供される療養の質に差がありませんでした。しかし、医療の進化により外来医療の質が向上してきました。そうした背景から、訪問診療ではできない治療が多いとイメージを持つ方がいます。現代では、訪問診療でも点滴や注射や投薬・血液検査や検尿・カテーテル管理・療養指導や相談など、通常外来診療で行う一般的な診療サービスのほとんどを行います。

▶︎患者の希望を反映しやすい
患者さんにとって在宅医療のいちばんのメリットは、住み慣れた環境で療養ができるという点です。また、訪問診療は、患者の生活の質を向上させることに重点を置きます。そのため、痛みを排除したい・副作用の強い治療はしたくない・住みなれた自宅で療養を受けたいなど患者さんやご家族の希望を治療内容に反映しやすいという特徴があります。

●訪問診療のデメリット
訪問診療にはメリットが多いですが、デメリットも存在します。実際に訪問診療へ移行したときに「こんなはずじゃなかった」ということにならないよう、デメリットを把握してもしものときに対応できるようにしましょう。

▶︎処置の制限
訪問診療は、医師や看護師など医療スタッフが自宅へ訪問して医療サービスを提供します。近年、訪問診療で使用できるように医療機器も持ち運びしやすいものが出てきました。しかし、CTやMRIなど持ち運びをするのに現実的でない検査機器もあります。これらを使用した検査や精密検査は訪問診療ではできません。他にも、衛生的な環境で行う手術など医療機関で行う処置と比較するとできないことがあります。

▶︎急変時の対応に不安がある
緊急時の不安が大きい点もデメリットのひとつです。入院治療では、スタッフも機材もそろっているため緊急時にもすぐの対応が可能ですが、在宅医療だと迅速な処置が難しくなります。在宅医療を受けている場合は救急車を要請するにしても、主治医に連絡し往診対応をしてもらうにしても到着まで一定の時間を有します。
また、救急車を要請し、全くの初診の病院に搬送された場合には、どのような病気や障害を持ち、どのような治療を受けているのかを家族や介護者へ聞き取りを行い、正しい処置まで時間がかかってしまうことがあります。 そこで、訪問診療医と連携できる体制で療養することと、24時間対応の訪問看護サービスを活用して万が一のリスクに備える工夫が求められます。

▶︎家族の負担
在宅医療のデメリットとして、患者の家族の負担が大きくなる点が挙げられます。入院治療では日常のケアを看護師が行いますが、在宅医療の場合は食事や服薬の世話まで家族がサポートしなければならないケースもあり、家族の協力が不可欠です。介護士や看護師がいない時間帯は、同居している家族が面倒見る必要が出てくるのです。介護士や看護師が滞在している間であれば買い物・お茶など自分の時間を作れますが、基本的には患者さんのことを最期まで面倒みる必要があります。そのため、ひとり暮らしの高齢者などの場合は在宅医療を続けるには限界があります。

●まとめ
在宅医療は昔から往診という形でありましたが、現代になって患者や家族のニーズとマッチした医療サービスになってきています。住みなれた落ち着ける環境で療養したい・最期を穏やかな気持ちで迎えたい・苦痛を伴う治療を受けたくないという様々な思いに対して訪問診療はアプローチしてくれます。しかし、そんな訪問診療にもメリットとデメリットが存在します。実際に、ご自身や家族が訪問診療を受けるときを想定してどのようなメリットとデメリットが存在するのかを知っておくと訪問診療を後悔なく選べるのではないでしょうか。これからより身近な存在になる訪問診療を利用される際の指標にしてください。

近年は、入院しながら治療することが難しくなってきています。そこで私たちメドアグリクリニックは、皆さんが好きな地元で落ち着いて療養できるよう、緊急事態には24時間体制で医師と看護師が対応いたします。「訪問診療」と「往診」を組み合わせながら、24時間365日、ご自宅や住みなれた場所での療養生活を支え、患者さんやご家族に寄り添った医療を提供いたします。
また在宅医療を利用しながら、病院での専門的な治療や検査を受けることも可能です。そして入院が必要となった場合は、当診療所スタッフが、地域の病院と連絡を取り合い入院先の手配・調整を行います。地域を愛し地域に愛され地域に根付いた医療を提供させていただくべく、誠心誠意で療養のお手伝いをさせていただきますので最期までお付き合いさせてください。

メドアグリケアからのメッセージ